在宅マッサージでのエピソードをご紹介します

I・S 様 77歳 男性  傷病名 脳梗塞

 

障害を持った方と接する時に、果たして相手は心を開いて下さるだろうか、と常に考えながら在宅マッサージという仕事を続けています。このI・S 様も頑なに心を開いて下さらない方でした。

 

狭いけれども、たくさんの花々が植えられている庭に面した一室にI・S 様はいらっしゃいました。一日中ベットに横たわっている状態でした。脳梗塞による左半身麻痺で完全に寝たきりだったのです。寝返りをうつこともできずにお尻の真ん中(仙骨)や踵に褥瘡ができていたり、また極度の便秘で摘便を受けている具合でした。常に痛みと不快感に耐えている表情をされていました。

 

コミュニケーションというと、ついたくさん喋ることのように思ってしまいますが、I・S 様にはこれは逆効果だと考え、最低限の挨拶と説明にとどめました。彼がひたすら頑張って回復することを見守るように努めたのです。

 

麻痺側の左腕や左足の関節は廃用性委縮で固くなって正常な可動域は無く、痛みをともなってました。この解消から始めました。
マッサージで筋肉の柔軟性を回復させ、他動運動法によって関節可動域を拡大させました。最初は痛そうな顔をされていましたが、3カ月くらいで関節の痛みは無くなりました。その後、介助付きではありますが、一回の施術の中で仰向け
から横向きになってもらい、さらに座ってもらい、右半身を使って立ってもらい同じく右半身を使って車椅子に移ってもらいと、豊富に運動してもらうようになりました。最初は一つ一つの体位の変換に恐怖の表情を浮かべていらっしゃいましたが、それもいつしか冷静な表情に変わって行きました。

 

表情が変わって行ったのと並行して褥瘡と便秘も無くなりました。気がつけば、I様の方から私に話かけてくるようになっていました。生きるということに少しだけ自信がついたようでした。  
(文:高寺哲)  


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